ワークショップや研修の場において、「集団」の中に「個」が埋もれてしまい、一人ひとりの思いが中々場に出てこないときがあります。
今日は、そんな時にどのようなポイントに着目してファシリテーションすればよいか、考えていきたいと思います。
1、全員「四つん這い」で走った中学生たち
1年ほど前のことですが、関西にある中学校でアメリカの団体が「即興演劇(インプロ)」のワークショップをするとのことで、どんなファシリテーションをするのか興味があり、見学させてもらったことがあります。
冒頭のアイスブレイクのときにちょっとした「ハプニング!?」が起きました。
そのファシリテーターが最初に選んだのは、「自分が好きな動物を身体で表現して体育館を一周しよう」というアイスブレイク。
中学生たちを一列に並ばせ、「GO,GO,GO!!!」と促します。
「さすがアメリカ人、難しいお年頃のジャパニーズ中学生にハードル高いことやらせるなあ・・・」と思いながら興味深く見守っていました。
戸惑いながらも、意を決した先頭の生徒が「犬(?)」になりきって「四つん這い」で走り出しました。
すると、なんと後に続く生徒たちも次々とまったく同じ「四つん這い」で走り出したのです。
↓こんな感じです。。。なかなか見ない光景でした・・・・・(笑)

当然ファシリテーターとしては、「自分の個性を身体をつかって自由に表現してほしい」という狙いがあったわけですから、全員が同じ行動をしたことに対して唖然とした表情をしています。
「Why Japanese people!!!」という言葉が今にも口から出てきそうでした(笑)
そして、そのファシリテーターは、少しがっかりしたような口調で、「君たちはもっとこの企画が何のためにあるのを知るべきだ。演劇をするためだろう?もっと恥ずかしがらず、自分を表現することにチャレンジしなくては何も得られないよ。」と中学生に諭しはじめたのです。
それを見て、「あ、これは新人研修などでも良く見かける場面だなー」と思いました。グループワークなどを無難に進めようとするばかりで、尖った「個」を出そうとしない新人たちに対して、トレーナーがイライラしてつい「説教モード」になってしまうのです。
もちろん、中学生たち自身の問題もあります。そのことについてフィードバックすることも決して悪い事ではないと思います。
しかし、少なくとも良いワークショップを創る上では、参加者の「態度」に原因を求めるだけではなく、ファシリテーター自身の「進め方」にも原因を求めた方が有益です。
では、ファシリテーターがどのようなポイントを修正すれば、中学生たちは「集団」の中で「個」を表現しやすくなったのでしょうか?
2、参加者が「個」を表現しやすくするためのファシリテーション、3つのポイント
中学生たちが「個」を表現しにくかった原因と、その修正ポイントは3つほどあると思います。
★ 1点目は、ファシリテーターが「いきなり、心理的抵抗の大きい課題に取り組ませたこと」です。
ジェスチャーなど身体を使って自分を表現することに慣れているアメリカ人と、シャイな思春期の日本人中学生は違います。
ファシリテーターとしては、「もっと簡単なアイスブレイクからスタートして少しずつ場を温めていく」という選択もあったと思います。
もしくは、「クラスメート全員の前ではなく、5~6人ずつ輪になってもらうなどグループサイズを小さくして発表してもらう」などの工夫があっても良かったでしょう。
★ 2点目は、「課題を分解せずに提示したこと」です。
ステーキを小さな子どもに食べさせるときは細かく切ってあげるように、課題もその人の習熟度に合わせて分解してあげることが“飲み込みやすくする”コツです。
この事例で考えてみると、「好きな動物の動作を皆の前で表現する」という課題は、「好きな動物を考える」、「身体表現のバリエーションを知る」、「それを組み合わせて自分なりに表現する」という3つのパートに分解することが可能です。
例えば、①「自分の好きな動物を考える」⇒②「ファシリテーターが動物の動きをいくつか実演し、まずはそれを真似してもらう」⇒③「それを参考にしながら、自分なりの表現の仕方を考えてもらう」、、、
といったように3ステップで進めれば、もう少し「個」を出しやすかったはずです。
★ 3点目は「時間を与えなかったこと」です。
自分の意見がまとまらないうちに、何かを表現しようとすると、場の雰囲気に流されやすくなります。このワークショップのときも、ファシリテーターが課題を提示してから、実際のワークに移るまで数秒しか与えていなかった記憶があります。
ワークショップや研修においては、他者と話し合う時間だけではなく、自分と向き合い自らの考えや気持ちを整理するための時間を取ることも、場に「個」の意見を出しやすくするために大切なのです。
3、最後に
私たち日本人にとって、集団の中で「個」を出すというのは1つのチャレンジではないでしょうか。
ファシリテーターがそれを理解していないと、すぐに「全員が四つん這いになって歩き出す」ようなコトが起こり得ます。
良いファシリテーターは、そこに「アンテナ」を立てていると思います。
私もワークショップ型の研修のファシリテーションをすることが多いのですが、自分の意見をまとめるための時間を十分取ること、少しずつ場を温めていくこと、なるべく課題を分解して一つずつ丁寧に進めていくことを意識しています。
しかし、一番大事なのは、ファシリテーターの「あり方」だと思います。
ちなみに、その中学校での演劇ワークショップは、こどもたちのモチベーションがどんどん高まっていき、様々な創意工夫が産まれ、大成功に終わりました。
ファシリテーションのスタイルは「アメリカ仕様」で場に戸惑いも産んでいましたが、そのファシリテーターにはこどもたちへの「愛情」と、物事を創造する喜びを伝えたいという「情熱」がありました。
それが、中学生のハートを動かし、良い場にしたのだと思います。
守屋文貴
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