
先日、ある医療機関で事務長をしているSさんと話をする機会がありました。
いつも穏やかで笑顔を絶やさない、Sさんのマネジメントは「上手いな~」と思います。
院長からの指示であっても、現場に負荷がかかりすぎると判断すれば、うまく実施時期をずらすなどの対応をします。また、スタッフが少し暇そうにしているなと判断すれば、勉強会や研修を実施するなどの施策を実施して現場を活性化していきます。
つまり、組織全体の状況を睨みながら、現場に適切な負荷がかかるように調整しているのです。
このような役割について、マネジャー研究の第一人者であるヘンリー・ミンツバーグは、著書の中で「マネジャーは組織の緩衝材としての役割を持つ」と表現しています。
マネジャーは、情報や影響が通過する「水路」であるだけではなく、その水路の「バルブ」の役割をも担い、どの情報や影響がどのように通過するかをコントロールしている。マネジャーは、影響の流れをコントロールする門番と緩衝装置の役割をはたしているのだ。
「エッセンシャル版 ミンツバーグ マネジャー論」ヘンリー・ミンツバーグ(著)、池村千秋(訳)、日経BP社(2014)より引用

まさにSさんは、このような緩衝装置(バルブ)の役割を果たすことで、経営と現場をうまく連動させているように見えます。
では、マネジャーがこのような役割を果たせないとどうなるか?
ミンツバーグは、マネージャーがこの「バルブ」を適切にコントロールできない「失敗パターン」を5つ(ザル型、ダム型、スポンジ型、ホース型、水滴型)に整理しています。
1、ザル型マネジャー
あまりにやすやすと、外部からの影響を部署内に流れ込ませてしまう。部署のメンバーは、外部からのあらゆる影響に反応しなくてはならない。
病院での例)看護師長が院長からの要求をすべて聞いてしまい、メンバーからの不満が蓄積し、大量離職につながる。
2、ダム型マネジャー
外部からの影響を自分のところでせきとめすぎる。外部からの改善要求などを部署内に十分に伝えない。マネジャーがこういう態度をとれば、メンバーは守られるが、その部署は外の世界から切り離されてしまう。
病院での例)病院の安全管理室から自部署に対してある指標を改善するように要求があったが、改善の必要ないと判断しメンバーにはその情報を伝えなかった。
3、スポンジ型マネジャー
プレッシャーをほとんど自分で受け止める。周囲には歓迎されるだろうが、マネジャー自身が燃え尽きてしまうのは時間の問題だ。
病院での例)病棟スタッフに嫌われたくないという心理が根底にあり、自己犠牲精神で仕事を抱え込み心身のバランスを壊してしまう。
4、ホース型マネジャー
ホースで水をまき散らすように、他部署の人たちに強烈な圧力をかける。その結果、他部署の人たちの怒りを買い、協力を得にくくなる。
病院での例)自部署の人手不足を強烈にアピールし、強引に他部署からヘルプを回させる。
5、水滴型マネジャー
外部に対して、水がポタポタと滴り落ちる程度の圧力しかかけようとしない。これでは対外的に自部署のニーズが十分に主張されない。
病院での例)経営状態が芳しくないのにも関わらず、事務方が現場に対して経営改善のための努力を求めようとしない。
「エッセンシャル版 ミンツバーグ マネジャー論」ヘンリー・ミンツバーグ著、池村千秋訳(日経BP社、2014年)より引用
赤字の医療現場における事例は守屋が加筆したもの
皆さんの病院でも良く見るパターンかもしれません(笑)
ポイントは、「どのタイプを選択すべきか?」ということではなくて、「特定の反応に頼りすぎていないか?」ということです。
例えば、現場が忙しいときにマネジャーが「ザル型」のみの対応で、色々な業務を引き受けすぎてしまえば現場の不満が鬱積し、大量離職につながるかもしれません。もしくは、マネジャーが「ダム型」のみの対応で、組織全体の方針を無視すればその部署は組織内で孤立していきます。
ミンツバーグも、同書の中で「状況に応じて、組織を守ることを優先させるべきときもあるし、外部のニーズに応えるべきときもあるし、外部に強く主張すべきときもある」と述べています。
管理職に求められる重要な資質の一つは、冒頭のSさんのように組織全体をバランスさせる力です。
もちろんマネジャーがその本来の役割を果たすことは簡単なことではありません。ただし、病院組織の課題は、「管理職のマネジメントに難があったとしても、それを修正する仕組みがない」ことだと思います。
病院は、管理職が「自らのマネジメントスタイルを内省し、修正する機会を増やしていく」必要があります。
病院は「人」によって成り立つ組織です。
そして、その「人」を動かしているのは管理職です。
その管理職を育てる環境を整備していくことは、病院の組織づくりの要諦なのではないでしょうか。
参考記事:「管理職が組織づくりの“鍵”を握るのはなぜか?」
守屋文貴
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