
今日は、医療現場で働く人が「バーンアウト」しないために、管理職が気を付けたいポイントを整理していきたいと思います。
「バーンアウト」を一言で言うと、「ガス欠」のこと。
「理想に燃え使命感にあふれた人を襲う病」(Price & Murphy, 1984)と表現されるように、最初から意欲がない人ではなく、“理想に燃えている”人に起こりやすいのが特徴です。
「自分の理想はこんなにも高いのに、現実の自分はこんなにも出来ていない・・・・」
その、「ギャップ」を埋めようとして“過剰に”努力し続けた結果、「マスラック・バーンアウト尺度(MBI)」の表現を借りれば、①情緒的消耗感(疲れ果てて、これ以上動けないという気分になる)、②脱人格化(クライアントに対して人間性を欠くような言動が増える)、③個人的達成感の後退(達成感や充実感を感じにくくなる)といった傾向が出てきます。
ちなみに、自分も「バーンアウト体質」で、クライアントから難しい課題をもらうと、昼夜問わず考え続け、いつの間にかエネルギーが枯渇して、心身のバランスを崩すというのが「パターン」でした。組織開発や人材育成の仕事は、「唯一の正解もない」、「学ぶことは無限にある」領域なので、良い仕事をしようという思いが強すぎるとどうしても心身に負荷がかかりやすくなってしまうのです。
医療従事者の仕事も似ていて、「終わりがないこと」が特徴です。学ぶべきことも経験すべきことも、キリがありません。例えば、難病に苦しむ患者さんを「どこまで心理的にサポートすればよいのか」などについての明確な線引きをすることは困難です。理想が高く使命感にあふれている新人看護師ほど、心に「ゆとり」を持つことができず、早く自分自身を成長させなくてはという「焦り」で埋められてしまいます。
看護師の管理職研修などでは、自分の目標を書いてもらうことがあります。研修独特の高揚感も手伝って、「患者さんを笑顔にしたい」、「笑顔が溢れる病棟をつくりたい」という思いを表現する方は少なくありません。そして中には、「自分が全く出来ていないことに気付きました、努力していきたい」と口にする方もいます。
これには少し注意が必要です。研修によって「高い理想」と「それが出来ていない現実」のギャップを産み出していることになりますから、受講者をバーンアウトさせる可能性を孕んでいることを講師は自覚するべきだと思います。
高い理想を描くことで、現実とのギャップが生じやすいポジティブ・アプローチやコーチング研修を、医療現場に導入する際にはリスクを伴うことがあります。個人的にポジティブ・アプローチには否定的ではなく、むしろ肯定的です。ただ、医療現場への「移植」のしかたには配慮が必要だと思うのです。
では、どのようにすれば「理想に燃える人」を「バーンアウト」させずに、成長させていくことが出来るのでしょうか。
一つの鍵は、「山を一歩ずつ登ること」です。
私自身は、ある時から「今すぐに、最高のアウトプットを出さなければ」という考え方を捨てることにしました。代わりに、「前回の研修よりも今回の研修を『5パーセント』改善しよう」という意識を持つようになりました。(このアドバイスをくださったのは、組織開発&人材育成コンサルタントの田村洋一さんで、いつも絶妙なタイミングで気づきをいただいてます<m(__)m>)
つまり、山の「頂上」ではなく、「足元」に焦点を当てるようになって、あまり焦らなくなったのです。それと同時に、かえって物事を進めるスピードも速くなり、成果が上がるようになってきたことも面白いなと思います。
自分の理想を持つことは決して悪い事ではありません。問題なのは、あまりにも急いでそこに到達しなくてはという「焦燥感」です。先に挙げたような医療従事者向けのコーチング研修などで、もし理想を描いてもらうのであれば、「焦らず一歩ずつ自分のペースで近づいていけばよい」というメッセージも同時に伝えることは不可欠です。
管理職が、“理想に燃える”新人に接するときにも、同じような考え方が役立ちます。
新人がバーンアウトしかけているときは、「あれもやらなくては、これもやらなくては」と収拾がつかなくなっていることが少なくありません。そんなとき管理職が、「一日に一つずつできることを増やしていけばいい」、そんな気づきを促し、具体的な「一歩」を一緒に考えてあげることは新人の助けになるはずです。
守屋文貴
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