医療機関にとってノンテクニカルスキル研修は、「いらない」のではなくて「知らない」んです。
守屋: 今日は筑波大学附属病院総合診療グループの前野哲博先生にお話を伺いたいと思います。前野先生とは、文部科学省の「未来医療研究人材養成拠点形成事業」採択プログラムである、「次世代の地域医療を担うリーダーの養成」というプロジェクトに一緒に取り組んでいます。
私自身、前野先生と一緒にこのプロジェクトを創造することを通じて大きな学びを得ることができました。前野先生にはとても感謝しています。
このプロジェクトでは、総合診療医が地域において、指導的役割を担う「リーダー」として良い変化を生み出すために必要なノンテクニカルスキルを養成するための教育プログラムを独自に開発し、実施してきました。今日は少し前のことを振り返っていただいて、私たちにお問合せ頂く前に、直面していた悩みを教えてもらえますか?
前野先生: そうですね。私はノンテクニカルスキル研修の必要性をかねてから認識していたのですが、自分自身にそのノウハウがありませんでした。研修を受ける側としてはいくつかこの種の研修に参加したことがありましたが、医療機関という業種にフィットしたものが中々なかったというのが当時抱えていた悩みです。
守屋: なるほど、企業向けの研修をそのままやっても、医療機関のニーズと合致しないという声は確かにあります。
前野先生: そうなんですよね。実はアクリート・ワークスにお願いする前にも、単発で何回か研修を依頼したことがあったのですが、やはり期待していたイメージにはフィットしなかったんですね。どうしても医療機関のケースに置き換えて考えづらく、事例や取り上げている内容にどうもしっくりこないと感じることがありました。
守屋: 実際に私たちの研修を受けてみて、特徴的に感じたことはありますか?
前野先生: 先に理論を教わり、自分でその体験をして、医療者にフィットした内容を学べるという点が、アクリート・ワークスの大きな特徴なのだと思います。そしてなにより一番は、守屋先生のファシリテーション力が素晴らしいこと。これは決してインタビュー向けのコメントではなくて心からそう思っています。また私自身に感覚として「こういう研修をしてほしい」というイメージはあるんですが、なにぶんそうした講座を受講した経験がないため、自らアレンジをすることができなかった。それが守屋さんとディスカッションすることで「どんな研修にするのかを考える」ところから一緒に進めていくことができました。この点が他社にはないところなのではないでしょうか?
守屋: もやもやしたところを言語化しながら、研修のデザインを協働で進めていくのは、私たちが大切にしているところです。ありがとうございます。実施前に不安だったことや気がかりだったことはありますか?
前野先生: そうですねぇ、しいて言えば土日を使って開催をしたので、ちゃんと人が集まるかなぁということぐらいでしょうか?それから参加者がちゃんとこうした内容に意義を感じてくれるのか?ノンテクニカル研修というニーズを共有できるだろうか?ということに関しては実施前には未知数でしたね。
守屋: 手ごたえはどうでしたか?
前野先生: 導入した結果、事前の心配は杞憂に終わり、課題意識をもってくれるようになりました。ノンテクニカル研修の必要性が伝わったように感じています。みんな非常に満足していると思います。これは僕がいつも言っていることなのですが、医療機関にとってノンテクニカルスキル研修は、「いらない」のではなくて「知らない」んです。これに気が付くことがとても大切です。まだ多くの医療機関が導入をしていないために、ニーズがあること自体が知られていない。
守屋: なるほど、受講後に研修内容が生きたシーンがあれば教えてください。
前野先生: まずは私自身が多くの場面でメリットを感じています。例えば「上手くいかない会議がなぜうまくいかないのか」理解できるようになりました。アジェンダを作ってタイムマネジメントをしたり、ワークの1つ1つを考える時に最適なグループサイズを考えるようにもなりました。具体的な事例としては、大学院のリサーチカンファレンスなどでこれまでは10数名でケースワークを進めていましたが、学年別に小グループを作るように変更しました。これにより、全員が意見を出せるようになり、議論がよりダイナミックになったように思います。
守屋: 決して難しいスキルではなく、知ってさえいればできるという部分も多くありますよね。
前野先生: こうした技術を知っているのと知らないのとの違いは大きいと思います。例えば、業務上の問題解決をする際にも、先生から教わったロジカルシンキングとシステム思考が思い浮かびます。これまで自分が経験則で行っていたことをセミナーで一度整理して教えていただいたので、今ではその思考法をスキルとして使うことができるようになったように感じています。
守屋: 少し話を戻して、私たちが「医療機関に特化している」「講師が医療従事者である」ことで感じたメリットはありましたか?
前野先生: まずは医療現場の専門用語が分かるというのは大きかったですね。講師が分からない言葉にぶつかった時にいちいち議論が止まるということがありません。それから医療者の特殊事情や時間、金銭感覚を理解してくれているのも助かります。ちょっとしたことに思えるかもしれないのですが、研修の時間を捻出するのがいかに大変かということを同じ医療者の目線で理解し、研修のスケジュールを立ててもらうことができる。例えば、研修に3日かけるのが最適であることは分かるが、それは難しい。それならばどのように組めば現場に響かないか、事情を理解して気を回してくれたことに感謝しています。
守屋: 医療機関の多くは、研修を内製しているところが多いと思います。そうした病院に、外部からセミナー講師を招くメリットを伝えるとしたら、どんなふうに語りますか?
前野先生: 一言で言えば「プロは違う」ということでしょうか。例えば、守屋先生のスライドを全部お借りして当院の誰かが使ったとしても内部では同じようにはできないと思うんです。話し手の伝え方によって響き方は大きく変わってきます。伝わらなくては深い理解には至らないですよね。またグループワークにはたくさんの即興性が求められると思っていて、これは一朝一夕に誰もができることではないのだと思っています。
守屋: ありがとうございます。では、最後に何かあれば一言お願いします。
前野先生: とても楽しくやらせてもらっています。型にはめた内容だけではなく、当院に必要な事例を都度取り入れ、こちらの要望も嫌がらずに受け入れ、人を育てて、その人がいい医療を提供するという共通の最終目標に向かって一緒に考えて進めている感覚があります。
守屋: 本日はお忙しい中、本当にありがとうございました。こうしてゆっくりフィードバックをいただくことはあまりないのでとても貴重な機会でした。
前野: これはすべて、お世辞ではない本音ですから。(笑)
★前野哲博氏
筑波大学附属病院総合診療グループ部長。1991年筑波大学卒、同年河北総合病院内科研修医。1994年より筑波大学総合医コースレジデント。1997年川崎医科大学総合診療部。1998年筑波メディカルセンター病院総合診療科を経て、2000年より附属病院勤務。日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本プライマリ・ケア連合学会家庭医療専門医・指導医、日本プライマリ・ケア連合学会副理事長